三浦 友由樹さん(理工学部4年

[ 編集者:総合企画部(大学企画・グローバル化推進担当)       2023年1月10日   更新  ]

溢れる知的好奇心に任せ、思い切り学び、楽しんだ4年間
~「AI活用人材育成プログラム」や「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY-起業家育成プログラムー」に参加~

プロフ写真

(プロフィール)

 2018年3月大阪府立池田高等学校を卒業後、2019年4月関西学院大学理工学部物理学科に入学。
 海外への渡航経験はないが、 AI活用人材育成プログラム の授業を通じて出会った、成績優秀かつノンネイティブながら抜群の英語力を持つ外国人留学生の友人の存在に衝撃を受け、自らもオンライン英語教材等を活用し、独学でTOEIC600点台から985点までスコアアップを成し遂げる。また 「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY 」 という起業家育成プログラムの活動をきっかけに、外国人講師を採用してオンライン英語教室を起業し、学生起業家としても活躍中。
 かねてから強く関心があったAIを含む最先端の情報技術を学ぶため、「AI活用人材育成プログラム」を履修し、優秀な成績を収める。プログラム修了後は、学生アシスタントとして同プログラムで学ぶ後輩学生の学修を支援している。
 卒業後は、グローバルIT企業の日本支社に就職予定。将来の夢はビジネスの分野から、科学技術の発展・普及に寄与していくこと。

       

1.はじめに

■なぜ関西学院大学理工学部への進学を決めたのですか?

 小さい頃から物理学には興味がありました。特に天体に関する物理、超弦理論、量子力学などについては、小学生の頃から一般向けの啓蒙書を好んで読んでいました。 また、昔からの知り合いに結晶を専門とする研究者の方がいて、その方が京都の博物館で開いていた勉強会にもよく参加していました。
 関学の理工学部物理学科は宇宙物理や物性物理に強みがあり、興味のある分野をまとめて学べるという理由で進学を決定しました。 
  

■外国への渡航経験や、国内での国際交流の経験について教えてください。

 外国への渡航経験はありませんが、海外への興味は以前から強く、在学中は様々な形で国際交流を経験しました。ここでは、その中でも特に強く影響を受けた出来事を2つほど紹介します。
    まず、正規留学生との交流です。 「AI活用人材育成プログラム」 (*注1)を通じ、複数の留学生と知り合いました。彼らは専攻でも非常に優秀な成績を収めていて、非ネイティブながら英語も一級品。当時、井の中の蛙だった私は強い衝撃を受けました。私自身が、日本人基準の英語力に満足することなく、TOEIC985点という高スコアを獲得することができたのは、ひとえに彼らと出会えた幸運のおかげです。
  二つ目に上げるものは、 ”Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY (*注2)という起業家育成プログラムに端を発する英語教室の話です。ここでの活動を通じ、オンライン英語教室を立ち上げた私は、講師として、4人の外国人を採用しました。「ただ話してもらうだけ」ではなく、発音や長文なども教えてもらっていたのですが、学習のバックグラウンドが全く違うため、指導法で何度も衝突しました。ただ、別々の観点からの意見を擦り合わせてより良いものを生み出すという経験は、異文化交流の真骨頂とも言えるものでしょう。今では貴重な経験ができたなと考えています。

友人や神戸学院大の先生とともに主催した英会話イベント

     (*注1)「AI活用人材育成プログラム」とは、最先端のAIの一つとして 知名度の高い“Watson”を擁するグローバル企業である日本IBMと関西学院大学が連携して提供する全学開講プログラム。「AI・データサイエンス関連の知識を持ち、さらにそれを活用して、現実の社会課題・ビジネス課題を解決する能力を有する人材」を「AI活用人材」と定義し、このような人材を育成し輩出することを目的としている。 
     (*注2)「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY」は、関西学院大学が、株式会社ウィルフと連携して開講する起業家育成を目的とした修了証プログラム。受講生は複数回事業を立ち上げながら、実践を通じて事業開発・起業に必要な経営スキルを学ぶ。

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2.所属学部での学び(ホームチャレンジ)

恵まれた環境で大好きな物理学に打ち込んだ4年間

■理工学部ではどんなことを中心に学びましたか?

プロフ写真
    「理論電磁気学」の自主ゼミでの様子

    私が所属していた物理学科では、物理学の中心となるような理論体系に加え、より応用的・各論的な物理学、
 例えば物性物理、宇宙物理、流体力学なども学びました。論理を武器に世界観を構築しては壊し、壊しては構築
 していく、という物理の発展を3年間の講義を通して迫っていきます。また、教授陣の専門とする分野を中心に
 様々な学生実験も行いました。直接的には観測しにくい複雑な物理現象を、理論的な仮説の下に観察しやすい現
 象にまで落とし込み、観測結果を元にモデルを作成し、実際に起こった現象を理論的に解釈します。
  実験の授業を通じて培った「科学的なアプローチ」はビジネスの仮説検証においても大いに役立つものだと思
 います。現在所属している研究室では、今までに学んだ知識を活かし、量子コンピュータなどに活用されるジョ
 セフソン接合の、超伝導理論を用いた取り扱いを学んでいます。担当教員は二人、学生は三人という小さな研究
 室ですが、同期メンバーは優秀で良い人ばかり。先生方はとても優しく、アドバイスはいつも的確で、些細な一
 言一句が分からないことだらけの研究の道しるべとなってくれます。学生たちはみんな先生が大好きなので、期
 待に応えようと頑張り、いつも助け合い、切磋琢磨しています。これ以上は望めないほど恵まれた環境で研究が
   できています。 
  

理工学部で印象に残った授業について教えてください。

  「科学技術英語A」という授業がとても強く印象に残っています。というのも、なんとこの授業、たまたま受講者が私一人だけだったのです!
今でも、初回の授業で「受講者は君だけだ」と言われた時の驚きを覚えています。授業の内容は、私の熱意と英語力に合わせ非常に難しいものになりました。毎週30ページ程度洋書を読み込み、1000語程度のエッセイを書き上げます。洋書は、世界中の宗教・哲学の幸福論を比較検討し「幸せとはなにか?」を探る一般向けの哲学書でした。洋書読解に加え、ニュートン力学の概念「慣性」について小学生向けに5分間の教育ビデオを作成することも重要な課題でした。構想、アニメーション、動画編集、ナレーションまで全て一人で制作します。授業中にエッセイや作成途中の動画に対するコメントを頂けるのですが、これがまたなかなか手厳しく、量も多いのに生半可なものは提出できません。ただ、この半年間を通して得た学びは英語力にとどまらず、クリティカルシンキング、エッセイライティング、議論の技術などを含みます。ライティングの技術は、ビジネスの現場でも強力な武器となってくれることでしょう。
    加えて、「理工学特別プログラム002【SPring-8活用プログラム】」という授業も印象に残っています。”SPring-8”は、世界最大級のエネルギーを持つ放射光を発生させることのできる実験施設です。全長が1.5kmほどもある巨大なリング状の加速器で電子を加速させることで放射光を発生させ、物質の構造などを観察できます。参加者は物理学科に限定されている訳ではなく、学年も入り交じっているので高いレベルの前提知識は必要ありません。基礎から丁寧に予備知識を学んだ上で、関学が民間企業と共同保有する施設で実験を見学することができます。当日は結晶成長の実験を行い、物理学科の実験科目でも学ぶX線解析の手法を用いて結果の解析・考察を行いました。現地での院生や研究者の方たちとのディスカッションも有意義でしたし、何より、最先端の実験施設で働く研究者たちの生活を垣間見られたことは他では得られない貴重な経験で、進路選択にも大いに参考になりました。

SPring-8でビームラインの中を覗く様子

厳しくも大きく成長を実感できた起業家育成プログラム

自分自身の人生、キャリアに影響を与えてくれた授業について教えてください。

 「人生に影響を与えてくれた授業」と言われて真っ先に思い浮かぶのは ”Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY”  です。

 株式会社ウィルフという起業スクールと連携して開講されている講座で、その中で受講生は3回の事業立ち上げを求められます。授業内容はマーケティング、マネジメント、セールスなど多岐にわたりますが、なにより特徴的なのは講師陣からの厳しいフィードバックでしょう。その厳しさは起業家を目指すものが絶対に向き合わなければならない類のものですが、あまりの厳しさに受講生は8割ほどが途中で脱落し、卒業生の視座は受講前後で急成長します。             
 とは言え先生が声を張り上げることなどは決してなく、むしろ常に落ち着き払った口調で、ただただ、思い通りに行かない現実と向き合い続けることを求めるのです。スライドに書いてあった多くの言葉は、今でも大切に胸に刻んでいます。「『~がない』は学生レベル。起業家は工夫して何とかする」などの言葉です。今ここで思い出すだけでも耳が痛くなってくる言葉ですが、人を巻き込んで事業を立ち上げておいて、「忙しくて」「人手が足りなくて」「お金が足りなくて」などということを言っているようでは、社長としての信頼など得られる筈もありません。足りないものは調達する。施策がうまくいかなければ次の施策を打つ。施策が何度も失敗するのであれば、次の施策を打つか、事業自体を辞めてしまうのか、先延ばしせず迅速に決定し、不屈の精神で動き続ける。それが経営者だと先生は口酸っぱく教えてくれました。今でも徹底できていないものばかりですが、耳に走る激痛に耐え忍びながら向き合い続けなければならない教えです。あゝ耳が痛い。

 Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY修了時に撮影
        後列左から3番目が三浦さん

                                                                                                               

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3.「AI活用人材育成プログラム」(アウェイチャレンジ:副専攻)

優秀な仲間たちと共に切磋琢磨~Life-Changing Program~

■なぜ 「AI活用人材育成プログラム」 の履修を決めたのですか。

 以前からAIを含む最先端の情報技術には強い興味があり、それを学べるということで渡りに船だと履修を決めました。最初の授業「AI活用入門」を受講した際には、これほど大きな影響を受けるとは思ってもみませんでした。 

 
「AI活用人材育成プログラム」 を通してどんな学び、新たな気づきがありましたか。

 AI活用人材育成プログラム(以下、プログラム)を通し、意図した形でも、意図していない形でも多くの影響を受けました。端的に、「人生が変わった」と言っても過言ではないと思います。
 まず一つの重要な要素は受講生たちのレベルの高さでしょう。私がTOEICテストで高得点を獲得できたのもここで高い英語力を持つ人たちと知り合い刺激を受けたからです。就職先の決定でも非常に大きな影響を受け、就職活動の選考の際にも本プログラムを通して手に入れた技能を存分に活用し、「基本情報技術者」と「応用情報技術者」というエンジニア向けの国家資格も取得しました。物理学科でも受講可能な情報系の他学科科目と合わせ、AI活用で得た情報技術の知識をより包括的なものとするためです。研究分野の選択にも影響を受けました。量子コンピュータに使われるジョセフソン接合を研究分野として選んだのは、物理学と情報科学の知識の両方を活かせるだろうと考えたからでした。
 このプログラムが無ければ、これほど真剣に情報技術を学習することはできなかったと思いますし、このプログラムが無ければ、これほど真剣に英語を学習することもなかったと思います。このプログラムが無くても、きっと似たようなことに挑戦したでしょうが、今より低いレベルで満足してしまっていただろうことは疑いようもありません。

 

           学内のビジネスコンテストにて優勝
           チームメンバーは全員AI受講生
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 特に印象に残っている講義は、「AI活用発展演習Ⅱ」という科目です。これはAI活用人材育成プログラムの総まとめとも言える授業で、外部企業様の協力を得て行われました。製品の提供までできるコンサル会社のように、学生でチームを組んでプレゼンすることで、現実社会との距離を測るという授業です。お題だけは担当教員から与えられますが、先方へのインタビューを通した課題の発見、アイデア出しから製品の試作品作成、それら全てのスケジュール管理まで、ほぼ全ての工程を学生が主体となって行います。
 この授業にたどりつくまでに18単位も取ってきた受講者ですから、チームも見慣れたメンバーばかり。得意不得意も既に良く知っています。そんなメンバーで、プロジェクトマネージャー、データサイエンティスト、エンジニアなどの役割を分担し、発表準備を進めました。プレゼン後に企業様からは、「実際のコンサル会社と比較しても遜色ないレベルの発表だが、これが現実なら失注していただろう」という評価を頂きました。嬉しい気持ちもありましたが、失注していただろうという言葉通り、足りないところが多いことは私自身痛感していました。20単位を取り終えた大きな達成感とともに今後の課題も明らかになり、常に「社会」「応用」を見据えていた「AI活用人材育成プログラム」の終わりに相応しい、本当に良い授業だったと思います。

■AI活用人材育成プログラムは、専門分野の学びとの相乗効果を生み出し、学びの発想力のレベルアップを目指しています。AI活用人材育成プログラムの科目を履修することにより、専門分野での学びの補完となったこと、もしくは相乗効果が得られたことなどがあれば、具体的に教えてください。

 まず挙げられる例は、私の専攻分野とも深く関連する量子コンピュータの分野でしょう。大学院に進学するのであればこの分野を専攻しようと思って選んだ分野ですし、結局就職先として選んだ企業も量子コンピュータにおいて世界トップクラスの技術を持つ企業でした。量子コンピュータは量子力学の原理を用いて計算するコンピュータです。一つ例を挙げます。皆さんもなじみ深い乗換案内アプリなどの中で解かれているような、最短経路を求める類の問題は「組み合わせ最適化問題」と呼ばれる種類の問題の一つです。様々な「組み合わせ最適化問題」は、「スピングラス模型における最低エネルギー状態探索問題」という量子力学の問題に数学的にマップできます。(注3)これを、量子アニーリングという計算技術を用いて計算するデバイスが量子アニーリングマシンという量子コンピュータです。組み合わせ最適化問題という情報工学の問題を、量子力学の問題として解くことでより早く解くことができる訳です。こういった問題に取り組むには、一定以上の物理学の知識や技量と同時に、情報工学や応用数理の知識も必要となります。量子コンピュータをAI(機械学習)に応用することを試みる、量子機械学習という分野もあります。まさに、AI活用人材育成プログラムと、私の専攻である物理学が相乗効果を生み出すような例と言えるでしょう。

 (*注3)出典:川畑 史郎, 量子アニーリングのためのハードウェア技術, オペレーションズリサーチ, 20186; https://orsj.org/wp-content/corsj/or63-6/or63_6_335.pdf  
 

AI活用人材育成プログラム修了後はSA(Student Assistant)としても活躍されておられます。SAの経験を通じて新たな気づきがあれば教えてください。
   
   AI活用人材育成プログラムの受講者には非常に優秀な人たちが多く、受講中たくさんの刺激を受けました。そのコミュニティに所属し続けることは自分の成長のためにも有意義だろうと思いましたし、なにより、自分が受けた恩を返す、という目的もありSAを始めました。SAとしての活動は、授業についてこられていない学生の個別フォローアップ、発表前のプレゼンブラッシュアップ、グループワークでのスケジュール調整サポートなどです。
 SAの研修で最初に学ぶことは、「教えてはいけない」ということです。上手くアドバイスをして、彼ら本人たちが自分たちの考えで質の高いアウトプットを出せるよう促し、自発的な思考・学習の後押しをしていく。これはまさに人材育成の訓練とも言えるもので、私の視座を大きくあげてくれました。また、AI活用人材育成プログラムはそれ自身が、動画やチャットボットを活用した最先端の教育システムです。私が受講している間にも常に進化を続けていました。このようなシステムの立ち上げから規模拡大まで、学生として受講するだけではなく、裏方として参加することができたというのは、インターンとして教育系の企業に潜り込む以上の価値がある、素晴らしい経験だったように思います。 ​​​​​

                                                                                 ▲このページの目次へ戻る

4.卒業後の進路と今後の夢

ビジネスの分野から、科学技術の発展・普及に寄与していきたいという夢に向かって

■卒業後の進路、そして将来の目標を教えてください。

 グローバルIT企業の日本支社に就職します。この企業を選んだ理由はたくさんありますが、第一に、量子コンピュータ分野も含め、様々な領域で世界トップクラスの技術を誇っていることです。私は物理が好きですが、本当に良くできる人たちには太刀打ちできません。ただ、科学技術に何かしらの形で関わっていたいという気持ちはありました。悩んだ末に、大学院には進学しないものの、興味のある分野の発展・普及にビジネス側から携わろうという決断に落ち着きました。
 技術の発展は人間の生活を豊かにし、人々の命を助けます。種々の問題も引き起こしますが、それらの問題がさらに発展した技術によって解決されることは、歴史によって証明されています。今後とも、私なりの方法で科学技術の発展・普及に寄与していきたいと思っています。

                                                                           ▲このページの目次へ戻る

5.後輩へのメッセージ ~さいごに~

■関学の後輩、そして今後関学への進学を志す高校生に向けてメッセージをお願いします。

三浦 友由樹さん
三浦 友由樹さん

 
 
 異色な回答になりそうですが、新入生だった頃の私に送るつもりで、実践的なアドバイスをさせていただきます。万人受けするものではありませんから、皆さまはご自身でその価値を判断してください。
 まず、「それができなくなることで死が恐るべきものとなるようなもの」を期限、内容の詳細とともに書き出してみてください。周囲が求めているものでなく、「あなた自身が」成し遂げなければ死にきれないと思うようなものです。現実的なペースでそのリストを消化していくとして、大学生のうちにしかできないことはありませんか? 今後の布石としてやっておくべきことはありませんか? 今のペースで、全部達成できそうですか? 大学生活をただの「余裕」として過ごしてしまう人は多くいます。しかし、それは本当に「余裕」ですか? 確かにあなたには緊急の仕事もありませんし、家族を養う責任もない。それがどれほど価値あるものか、あなたは「今」理解しなければならないと、ここで強く述べておきます。

 当事者意識を持ってください。自分の頭で考えてください。野心に任せてたくさん挑戦しましょう。知的好奇心に任せ好きなだけ学びましょう。関学はきっとその熱意に応えてくれます。うまくいかないことも多くあるでしょうが、思い切り時間をかけたド派手な失敗も、今のうちにやり尽くしてしまいましょう。大学生活、楽しんでください!





 

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